データ収集記録分析行政文書実績データレビューフレーム既存資料
文書レビュー
Document Review
別名: 記録レビュー、資料分析、ドキュメントレビュー
事業記録・議事録・行政文書・実績データなどの既存文書を体系的に収集・精査し、評価に必要な情報を引き出す手法。新規データ収集なしに事業の経緯・実績・変化を把握できる費用対効果の高いアプローチ。
難易度 初級 ●●●費用 低 ●●●期間 文書収集1〜2週間、分析1〜3週間(文書量・複雑さによる)
概要
文書レビュー(Document Review)は、評価対象の事業・組織・政策に関連する既存の文書資料を収集し、評価クエスチョンに照らして体系的に分析する手法。追加的な調査コストがかからず、事業の記録・歴史的経緯・意思決定過程を再構成するために不可欠な手段であり、多くの評価においてデータ収集の第一段階として位置づけられる。
対象となる文書は幅広い。事業内部文書(事業計画書・進捗報告書・会計記録・会議議事録)、対外文書(助成金申請書・報告書・プレスリリース)、行政文書(政策文書・統計資料・監査報告)、受益者関連記録(参加記録・ケース記録・苦情記録)などが含まれる。体系的なレビューのためには「何を・どのような視点で・どの文書から」を定めたレビューフレームの設計が重要であり、複数の評価者が同一の基準で読み進める手続きを確立することで信頼性を確保する。
✓ こんな時に使う
- 事業の実施経緯・意思決定の過程を時系列で再構成したい
- 参加者数・実施回数・予算執行など定量的な実績データを把握したい
- インタビューや調査票実施の前に背景知識を整理したい
- 過去の評価・監査報告の内容を確認し、改善状況を検証したい
✕ 向かない場面
- 関係者の認識・態度・感情など、文書に記録されていない情報が評価の中心の場合 — インタビューやFGDを用いる
- 文書の保存・管理が不十分で信頼性の低い記録しかない場合 — データの限界を率直に報告する
- リアルタイムの実施状況を把握したい場合 — 観察法が適切
実施手順
- 必要な文書の特定と収集計画の策定評価クエスチョンごとに「どの文書から何の情報が得られるか」をマッピングする。収集対象の文書の種類・所在・アクセス手続き・形式(紙・電子)を一覧化し、収集の優先順位を決める。
- レビューフレームの設計「何を読み取るか」を定めたレビューフレーム(抽出する情報の種類・評価の視点・記録フォーマット)を設計する。評価クエスチョン別に抽出項目を設定し、証拠の質の判断基準(一次文書 vs 二次文書、公式 vs 非公式)を明確にする。
- 文書の収集とアクセス確保組織の情報管理担当者に依頼し、必要な権限を確認する。機密文書の取り扱い手続き(閲覧場所・複写の可否・開示制限)を遵守する。収集した文書は日付・種類・出所の記録を残す。
- 文書の品質評価各文書について、作成者・作成目的・作成日時・原本性(コピーか原本か)を確認する。文書の目的(対外的な好印象のための文書か、内部管理のための正確な記録か)を考慮してバイアスを評価する。
- 体系的なレビューと情報の抽出レビューフレームに沿って文書を読み、関連情報を抽出・要約する。文書ごとにレビューシートを作成し、証拠の出所(文書名・ページ)を記録する。矛盾する情報が文書間で見つかった場合は両方を記録し、差異の理由を探る。
- 情報の統合と分析複数の文書から抽出した情報を評価クエスチョン別に統合する。単一文書の情報は他の証拠(インタビュー・観察)と照合して三角測量(Triangulation)を行う。文書に記録されていないこと(空白)も証拠として注目する。
長所と限界
長所
- 追加的なフィールド調査なしに事業の実績・経緯・意思決定を再構成できる
- 費用が低く、時間も相対的に短い
- 過去の出来事・変化の軌跡を遡及的に把握できる
- 現存する文書が客観的な証拠として機能する
限界
- 文書に記録されていることしか分からない — 暗黙知・非公式プロセスは見えない
- 文書が不完全・偏向・加工されている可能性があり、批判的な読み方が必要
- 大量の文書のレビューは時間を要し、情報過多になる危険性がある
- プライバシー・機密性の制約でアクセスできない文書がある
⚠ よくある落とし穴
- 好意的な文書(成功報告書)だけを収集し、批判的な記録(苦情・内部反省メモ)を見落とす — レビュー計画に多様な文書種類を含める
- 文書の記述をそのまま「事実」として引用する — 作成者の目的・立場を踏まえた批判的読解が必要
- 分析フレームなしに読み始め、大量の文書に埋もれる — レビューフレームを先に確定してから収集・分析を始める