ひと目でわかる仕組み
- リサーチクエスチョンとデザインの確定
- 事例選定戦略の決定
- データ収集プロトコルの設計
- データの収集(複数ソース)
- 単一事例の分析
- 複数事例の比較分析(複数事例設計の場合)
- 結論の提示と分析的一般化
使う場面
- 「なぜ成果が出たか・出なかったか」というプロセスと文脈を解明したい
- 複数の実施地域・組織間で成功事例と失敗事例を比較したい
- 統計的調査では捉えにくい複雑な変化のメカニズムを追跡したい
- 革新的プログラムや前例のない取り組みを深く文書化したい
向かない場面
- 大規模な量的傾向の把握が主目的の場合 — サーベイや既存統計が適する
- 統計的代表性が求められる場合 — ケーススタディは分析的一般化であり統計的一般化ではない
- 時間・予算が極めて限られている場合 — 複数の方法によるデータ収集に相応の資源を要する
参加者・体制と成果物
事例を調べる評価者と関係者。事例数は問い、比較設計、事例ごとの深い調査が可能な資源から決める。
主な成果物
- ケーススタディプロトコル
- ケースデータベース(生データ+メモ)
- 事例サマリー(事例ごと)
- クロスケース分析レポート
実施手順
- リサーチクエスチョンとデザインの確定「なぜ」「どのように」という問いに対応させてケーススタディを選択する。事例の定義(単位:個人・組織・プロジェクト・地域)と事例数(単一 vs 複数)、ケース内の分析単位(Embedded Units)を設計する。
- 事例選定戦略の決定評価目的に応じた選定戦略を明確にする。典型的事例(通常の実施例)、批判的事例(理論的に重要)、逸脱事例(予期しない結果)、最大多様性事例(多様な文脈をカバー)などの戦略を文書化する。
- データ収集プロトコルの設計ケーススタディプロトコル(Case Study Protocol)を作成する。各事例で収集するデータ源の種類(インタビュー・観察・文書・アーカイブ)、収集手順、担当者を明記する。プロトコルは複数の調査者で共有し、一貫性を確保する。
- データの収集(複数ソース)各事例について、インタビュー・観察・文書レビュー・その他データを並行して収集する。データはケースデータベース(Case Database)に体系的に保管し、生データとメモを分けて管理する。
- 単一事例の分析各事例の証拠を統合し、評価クエスチョンに対する当該事例の「ケースサマリー」を作成する。事実・解釈・証拠の出所を明確に分け、事例内での一貫性と矛盾を記録する。
- 複数事例の比較分析(複数事例設計の場合)事例間の共通パターンと差異を体系的に比較する(Cross-Case Analysis)。「複数事例で繰り返し観察されるパターン」を分析的一般化の根拠とし、文脈の違いが結果に与えた影響を考察する。
- 結論の提示と分析的一般化研究結果を理論・命題と照合し、ケーススタディを超えた示唆(分析的一般化)を慎重に提示する。事例の選定戦略・分析プロセス・限界を報告書に透明に開示する。
長所と限界
長所
- 文脈の中で「なぜ・どのように」を解明する説明力が高い
- 量的手法では見えないプロセス・メカニズム・複雑な変化を記述できる
- 複数のデータ源による三角測量で内的妥当性を高められる
- 豊富な記述が報告書での事例紹介・教訓の伝達に直接使える
限界
- 事例の選定が偏ると分析的一般化の根拠が弱くなる
- 複数の方法・大量データの分析に時間とスキルを要する
- 統計的代表性がなく、「たまたまその事例がそうだった」という反論を受けやすい
- 研究者の解釈バイアスが入りやすく、分析プロセスの透明な記述が重要
⚠ よくある落とし穴
- 「便利だから」という理由で事例を選び、選定理由を文書化しない — 選定戦略の明示が分析的一般化の信頼性を左右する
- 単一の情報源だけで説明を確定する — 問いに必要な複数の証拠源を計画し、照合できる範囲と限界を明示する。文書とインタビューは組合せの一例
- ケースサマリーを「物語の記述」で終わらせる — 評価クエスチョンへの回答として構造化し、証拠を明示する
適用条件と根拠
- 暫定解釈を追加情報で点検し、説明と矛盾する事実も検討します。 [1]
同じ研修を導入した二つの組織を比較する
説明用の仮想例です。仮想のA団体とB団体で、研修後の計画活用過程を追います。
| 事例 | 文脈 | 仮想的な経過 |
|---|---|---|
| A団体 | 月例会議あり | 計画案を議題にして収集項目を決定 |
| B団体 | 担当が交代 | 計画案を引き継げず未活用 |
この例から判断できること
会議や引継ぎを支援する仮説が得られます。ただし組織規模や他の研修なども異なるため、会議だけの効果とは断定しません。
判断で間違えやすいこと
成功した事例だけで有効性を結論する
見直し方: 未達事例も選び、選定の理由を示す
理由: 成功条件と失敗条件の違いを検討するためです。
二つのうち一つで成功したので成功率50%とする
見直し方: 二事例の過程比較として報告する
理由: 目的的な事例選定は母集団の無作為標本ではないためです。
参照資料と確認箇所
- Case Study EvaluationsU.S. General Accounting Office · 1990
- 参照箇所
- Chapter 4: Data Collection and Analysis
- 本文との対応
- 暫定解釈を追加情報で点検し、説明と矛盾する事実も検討します。
このページの引用情報
評価コンパス編集.「ケーススタディ」. 評価コンパス, 2026-10-07更新. https://evalcompass.jun-nakatani.com/methods/case-study/
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更新履歴
- — 定義と適用条件の出典を確認し、仮想事例、判断理由、全欄の記入例を追加。未確認の歴史・普及に関する断定を整理。 既存の手順・留意点も点検し、固定的な人数・閾値や制度の一般化を調整。 入力欄の位置・型・個数を保ち、フォームの固定条件や閾値の表記を修正。
- — 内容確認 FW-09 に基づき、断定・固定条件または記入シートと例の不整合を最小修正。入力欄の数・順序・ラベル・セクション構造を維持。未確認資料の確認状態は変更していない。

