ひと目でわかる仕組み
- 共変量(交絡因子)の特定
- 傾向スコアの推定
- マッチング実施と共通サポートの確認
- マッチング後のバランス診断
- 処置効果の推定
- 感度分析(Rosenbaum bounds)
使う場面
- ランダム化ができない観察データ(行政記録・既存調査)を用いて、プログラム参加者と非参加者を比較したい
- 参加者の特性が対照群と異なることが明らかで、特性を揃えたうえで比較する必要がある
- 共変量(交絡因子)のデータが豊富に揃っており、未観測交絡の問題が比較的小さいと考えられる場面
- DiDやRDDを適用できない観察的な遡及評価で、代替手法として検討したい
向かない場面
- 介入の受否に強く影響する変数が未観測であり、データとして入手できない場合——観測されない交絡因子は傾向スコアでは除去できない
- 共通サポート(両群で傾向スコアが重複する領域)が極端に狭く、多くの対象者がマッチ相手を見つけられない場合
- サンプル数が少なく、マッチング後にサンプルが大幅に減少して推定精度が低下する場合
参加者・体制と成果物
統計解析ソフト(R: MatchIt、Stata等)を扱える計量経済学・統計の専門家1〜2名。共変量の選択には対象分野の専門知識が必要
主な成果物
- 傾向スコア推定モデルの結果(係数・モデル適合統計)
- マッチング前後の共変量バランス診断表・ラブプロット
- 対象集団を明記した平均差・効果推定値と不確実性
- 感度分析(Rosenbaum bounds)の結果
実施手順
- 共変量(交絡因子)の特定介入前に測定された交絡要因を領域知識から選ぶ。介入後の変数や結果の一部を無差別に入れず、未測定の要因も列挙する。
- 傾向スコアの推定介入前の共変量から受療・参加の確率を推定する。予測精度の高さだけを目標にせず、両群の重なりとマッチ後の共変量バランスを確認する。
- マッチング実施と共通サポートの確認選択したマッチング手法(最近傍・カーネル等)でマッチングを行う。介入群と対照群の傾向スコア分布の重複領域(共通サポート)を確認し、共通サポート外の個体をどう扱うか決める。
- マッチング後のバランス診断マッチング前後の共変量について標準化差や分布を比べる。平均の差だけでなく重要な分布の違いも点検し、単一の閾値を因果比較成立の証明にしない。
- 処置効果の推定定めたマッチングと重みに対応する対象集団で差を推定する。除外された介入対象がいる場合は、元の介入群全体のATTと同一視しない。推定法に対応した分散推定を用い、一般的なブートストラップを無条件に適用しない。
- 感度分析(Rosenbaum bounds)未観測の交絡因子がどの程度存在すれば推定結果が変わるかをRosenbaum bounds等の感度分析で示す。結果の頑健性の限界を率直に報告する。
長所と限界
長所
- RCTが不可能な観察データで選択バイアスを軽減し、より公正な比較を実現できる
- 多数の共変量を単一の傾向スコアに縮約することで、高次元のデータのマッチングが扱いやすくなる(次元の呪いを緩和)
- 既存のデータを活用して実施でき、RCTに比べてコストと期間を大幅に削減できる
- バランス診断によって、共変量の均等化の達成状況を透明に報告できる
限界
- 観測できない変数が交絡因子として存在する場合(未観測交絡)には対処できない——これがPSMの最大の限界であり、因果推論の妥当性はデータに含まれる変数の網羅性に依存する
- マッチング後に対照群の多くが除外されることでサンプルが減少し、推定精度が低下する
- 共通サポートが狭い場合、マッチング後のサンプルが元の介入群の一部を代表するにすぎず、外的妥当性が低下する
- 傾向スコアモデルの関数形の設定(どの変数を含めるか、交互作用を含めるか等)に結果が感応する
⚠ よくある落とし穴
- 「PSMで交絡を除去できた」という過信——観測できた変数に関するバランスは改善されるが、未観測変数による交絡は残る。感度分析の実施と、未観測交絡の可能性に関する率直な議論が不可欠
- バランス診断を省略しない。標準化差や分布の図などでマッチ後の違いを検討し、単一の指標や図を因果比較の成立保証にしない。
- 共通サポートの確認を怠る——傾向スコアが介入群と対照群でほぼ重複しない場合、マッチングは外挿になり信頼できる比較ができない
- ATT・ATE・マッチ後の部分集団の効果を混同しない。どの対象をどの重みで平均しているか、除外によって対象が変わったかを明記する。
適用条件と根拠
- 共通サポートと共変量バランスを確認しても、未観測交絡がないことを証明できません。 [1]
職業相談の参加者に比較相手を見つける
説明用の仮想例です。介入前の属性で3組を対応させた仮想的な説明表です。効果を検証できる標本数を示すものではありません。
| 組 | 参加者の就職 | 比較対象の就職 |
|---|---|---|
| 1 | 1 | 1 |
| 2 | 1 | 0 |
| 3 | 0 | 0 |
この例から判断できること
対応できた参加者について平均差は(2−1)÷3=約0.333、33.3パーセントポイントです。未観測の意欲や支援状況が異なる可能性があり、全参加者の因果効果とは断定しません。
判断で間違えやすいこと
介入後の意欲をマッチング変数に使う
見直し方: 介入前の属性と因果関係を踏まえて変数を選ぶ
理由: 介入で変わる変数を調整すると推定対象が変わるためです。
AUCが高いので比較可能とする
見直し方: マッチ後のバランスと共通サポートを評価する
理由: 介入参加の予測力と比較の妥当性は別だからです。
参照資料と確認箇所
- Impact Evaluation in Practice, Second EditionPaul J. Gertlerほか/World Bank・Inter-American Development Bank · 2016
- 参照箇所
- Chapter 7: Difference-in-Differences / Chapter 8: Matching
- 本文との対応
- 共通サポートと共変量バランスを確認しても、未観測交絡がないことを証明できません。
このページの引用情報
評価コンパス編集.「傾向スコアマッチング」. 評価コンパス, 2026-09-13更新. https://evalcompass.jun-nakatani.com/methods/psm/
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更新履歴
- — 定義と適用条件の出典を確認し、仮想事例、判断理由、全欄の記入例を追加。未確認の歴史・普及に関する断定を整理。 既存の手順・留意点も点検し、固定的な人数・閾値や制度の一般化を調整。 入力欄の位置・型・個数を保ち、フォームの固定条件や閾値の表記を修正。

