因果推論・実験因果推論自然実験パネルデータ政策評価準実験

差の差分析

Difference-in-Differences
別名: DiD、二重差分法、差分の差分

介入前後の変化量を介入群と対照群で比較し、「もし介入がなければどうなっていたか」を対照群のトレンドで代替する準実験的手法。自然実験や政策変更の遡及評価に広く用いられる。

難易度 上級 ●●●費用 ●●期間 データ整備に1〜4週間、分析・解釈に1〜2週間

概要

成果介入前介入後対照群介入群(実測)反事実(平行と仮定)DiD=効果
介入群と対照群の前後変化の「差の差」を効果とする。平行トレンド仮定が成立の前提。

差の差分析(Difference-in-Differences, DiD)は、介入群と対照群のそれぞれについて「介入前から介入後への変化量」を計算し、その差を取ることで介入効果を推定する手法。経済学者 David Card と Alan Krueger(1994)による最低賃金と雇用の研究が手法の普及に決定的な役割を果たし、Card は2021年にノーベル経済学賞を受賞した。

手法の核心となる識別仮定は「平行トレンド仮定(parallel trends assumption)」——介入がなければ介入群と対照群は介入前と同じ平行な時間的トレンドをたどっていたはず、という仮定である。この仮定は直接証明できないが、介入前の複数時点のデータで両群のトレンドが平行であることを可視化・検定して間接的に確認する。

近年は複数の政策導入タイミングを扱うスタガード化DiDの推定量バイアスへの指摘から、Callaway & Sant'Anna(2021)などの新手法が積極的に使われるようになっている。

✓ こんな時に使う

  • 政策・プログラムが段階的または地域限定で導入され、介入群と非介入群の両方について介入前後のデータが入手できる
  • 過去に実施した政策の効果を遡及的に評価したい(ランダム化できなかった場合の代替)
  • 自然実験(法改正・突発的な政策変更など、外生的な介入)を活用したい
  • 行政記録・パネルデータなど既存の時系列データを使ってコスト効率よく評価したい

✕ 向かない場面

  • 介入前のデータがなく、介入後の一時点しかないデータ(クロスセクションデータのみ)
  • 介入群と対照群で介入前の時間的トレンドが明らかに異なる場合(平行トレンド仮定が成立しない)
  • 介入の選択が成果変数に強く依存している場合(より悪いから介入を受けた、など)

実施手順

  1. 介入群・対照群の定義
    政策・プログラムを受けたグループ(介入群)と受けなかった比較グループ(対照群)を定義する。対照群は介入群と介入前のトレンドが類似するグループを選ぶ。
  2. データ収集と構造確認
    介入前・介入後の少なくとも2時点(介入前は複数時点が望ましい)について、両群の結果変数と統制変数のパネルデータを準備する。
  3. 平行トレンドの視覚的確認
    介入前の複数時点について介入群・対照群の結果変数の推移を折れ線グラフで可視化し、両群のトレンドが平行であることを確認する。これが中心的な前提検証。
  4. DiD推定量の計算
    (介入群の介入後平均 − 介入群の介入前平均)−(対照群の介入後平均 − 対照群の介入前平均)がDiD推定量。回帰分析では、介入群ダミー×介入後ダミーの交差項係数がDiD推定量に対応する。
  5. 共変量の統制とロバスト性確認
    両群間で異なる可能性のある共変量を回帰に加える。標準誤差はクラスタリングして計算する。Placeboテスト(介入前の期間でDiDを行い、有意な効果が出ないことを確認)でロバスト性を検証する。
  6. 仮定の検証と結果解釈
    平行トレンド検定の結果とともにDiD推定量・標準誤差・信頼区間を報告する。効果の大きさが政策的に意義があるかを議論する。

長所と限界

長所

  • ランダム化が不可能な場面でも、自然実験や既存データを活用して因果効果を推定できる
  • 各グループ固有の固定的な差(時間不変の未観測要因)を除去できる
  • 行政記録など既存データを活用でき、コストを抑えて遡及評価が可能
  • 仮定(平行トレンド)を検証可能であり、研究の透明性を確保できる

限界

  • 平行トレンド仮定の成否が全ての推論の信頼性を左右するが、この仮定は反事実的であり直接には証明できない
  • 時間と共に変化する未観測の交絡因子(特定の時点のみ介入群に影響する要因)に対処できない
  • サンプル数が少ない場合(処置群が1〜2ユニットのみ等)は推定の精度が大幅に低下する
  • 複数の政策が同時に変更された場合、特定の政策の効果を分離するのが困難

⚠ よくある落とし穴

  • 介入前のトレンド確認を省略する——「介入前は並行していた」と言葉だけで主張し、図・検定を示さないと仮定の根拠が不透明になる。複数の介入前時点のデータを必ず可視化すること
  • スピルオーバー(波及効果)の見落とし——対照群が介入の影響を間接的に受けている場合(地理的隣接、ネットワーク効果)、対照群が純粋な反事実を表さなくなる
  • 多重検定問題——複数の結果変数を検討する場合は事前に一次指標を定め、多重検定補正を行う
  • 集計レベルのデータで処置ユニット数が少ない場合——標準誤差が過小推定になりやすく、合成コントロール法等への切り替えを検討する