ひと目でわかる仕組み
使う場面
- 政策・プログラムが段階的または地域限定で導入され、介入群と非介入群の両方について介入前後のデータが入手できる
- 過去に実施した政策の効果を遡及的に評価したい(ランダム化できなかった場合の代替)
- 政策の導入時期や対象の違いを利用し、比較群との前後変化を検討したい
- 行政記録・パネルデータなど既存の時系列データを使ってコスト効率よく評価したい
向かない場面
- 介入前のデータがなく、介入後の一時点しかないデータ(クロスセクションデータのみ)
- 介入群と対照群で介入前の時間的トレンドが明らかに異なる場合(平行トレンド仮定が成立しない)
- 介入の選択が成果変数に強く依存している場合(より悪いから介入を受けた、など)
参加者・体制と成果物
計量経済学の知識を持つ評価者・データアナリスト1〜2名。行政データへのアクセス権限を持つデータ管理者との連携が必要
主な成果物
- DiD推定量とその標準誤差・信頼区間の表
- 介入前後の時系列推移グラフ(平行トレンドの可視化を含む)
- ロバスト性検定(Placeboテスト等)の結果
- 政策的含意の考察文
実施手順
- 介入群・対照群の定義政策・プログラムを受けたグループ(介入群)と受けなかった比較グループ(対照群)を定義する。対照群は介入群と介入前のトレンドが類似するグループを選ぶ。
- データ収集と構造確認両群について介入前と介入後の成果を準備する。同じ個体のパネルか反復横断調査かを明示し、対象集団と測定の比較可能性を点検する。複数の介入前時点があればトレンドを調べる。
- 平行トレンドの視覚的確認介入前の推移を図示し、政策の決まり方と合わせて平行トレンドの根拠と脅威を検討する。事前に差が検出されなかったことは、介入後の反事実的な平行トレンドの証明ではない。
- DiD推定量の計算(介入群の介入後平均 − 介入群の介入前平均)−(対照群の介入後平均 − 対照群の介入前平均)がDiD推定量。回帰分析では、介入群ダミー×介入後ダミーの交差項係数がDiD推定量に対応する。
- 共変量の統制とロバスト性確認調整する変数は介入との時間関係と因果上の役割から選ぶ。割当単位と誤差の依存に合う標準誤差を用いる。プラセボや仕様変更で結果の感応性を調べる。導入時期が異なる場合は単純な二群二時点式の拡張を慎重に選ぶ。
- 仮定の根拠と結果の報告推定値と不確実性に加えて、平行トレンド、先行反応、波及、同時政策、対象構成の変化を報告する。統計検定だけで識別仮定を認定しない。
長所と限界
長所
- ランダム化が不可能な場面でも、自然実験や既存データを活用して因果効果を推定できる
- 各グループ固有の固定的な差(時間不変の未観測要因)を除去できる
- 行政記録など既存データを活用でき、コストを抑えて遡及評価が可能
- 事前推移と比較群選定の根拠を提示し、仮定がどの程度もっともらしいかを批判的に検討できる
限界
- 平行トレンドは反事実についての仮定で直接証明できず、先行反応・波及・構成変化などの条件も推論に関わる
- 時間と共に変化する未観測の交絡因子(特定の時点のみ介入群に影響する要因)に対処できない
- サンプル数が少ない場合(処置群が1〜2ユニットのみ等)は推定の精度が大幅に低下する
- 複数の政策が同時に変更された場合、特定の政策の効果を分離するのが困難
⚠ よくある落とし穴
- 介入前の推移や比較群の背景を確認せず平行と決める。事前データが不足する場合は根拠の限界を明記し、図や検定があっても仮定を証明できないことを説明する。
- スピルオーバー(波及効果)の見落とし——対照群が介入の影響を間接的に受けている場合(地理的隣接、ネットワーク効果)、対照群が純粋な反事実を表さなくなる
- 多重検定問題——複数の結果変数を検討する場合は事前に一次指標を定め、多重検定補正を行う
- 集計レベルのデータで処置ユニット数が少ない場合——標準誤差が過小推定になりやすく、合成コントロール法等への切り替えを検討する
適用条件と根拠
相談拠点の開設前後を比較する
説明用の仮想例です。介入地域と未介入地域の制度申請率を比較する仮想計算です。
| 地域 | 介入前 | 介入後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 介入地域 | 50% | 65% | +15ポイント |
| 比較地域 | 40% | 45% | +5ポイント |
| 差の差 | — | — | +10ポイント |
この例から判断できること
(65−50)−(45−40)=10パーセントポイントです。二時点の表だけでは平行トレンドや因果効果は確認できません。複数の介入前時点と制度変更を検討します。
判断で間違えやすいこと
介入地域の15ポイント増加を全て効果とする
見直し方: 比較地域の5ポイント増加を差し引く
理由: 共通の時間変化が含まれるためです。
事前トレンド検定が非有意なら仮定が証明されたとする
見直し方: 推移と検出力、割当経緯、同時政策を合わせて検討する
理由: 反事実の仮定は検定だけで確定できないためです。
参照資料と確認箇所
- Impact Evaluation in Practice, Second EditionPaul J. Gertlerほか/World Bank・Inter-American Development Bank · 2016
- 参照箇所
- Chapter 7: Difference-in-Differences / Chapter 8: Matching
- 本文との対応
- マッチングと異なり、差の差は時間不変の群間差を除きますが、群ごとに異なる時間変化への仮定を要します。
- Magenta Book Annex A: Analytical methods for use within an evaluationHM Treasury / Evaluation Task Force · 2026
- 参照箇所
- A2.7 pp.29–30, What is it? / How is it used? / Pros and cons: pre-intervention trends, comparable data, counterfactual parallel trends
- 本文との対応
- 両群の介入前推移と比較できるデータを確認し、介入がなければその後も平行に動くという仮定を検討します。同時期の関連要因の変化と、データの質・量も結果の解釈に関わります。
このページの引用情報
評価コンパス編集.「差の差分析」. 評価コンパス, 2026-10-07更新. https://evalcompass.jun-nakatani.com/methods/did/
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更新履歴
- — 定義と適用条件の出典を確認し、仮想事例、判断理由、全欄の記入例を追加。未確認の歴史・普及に関する断定を整理。 既存の手順・留意点も点検し、固定的な人数・閾値や制度の一般化を調整。 入力欄の位置・型・個数を保ち、フォームの固定条件や閾値の表記を修正。
- — Magenta Book Annex A(May 2026)のA2.7を、介入前推移・比較データ・反事実の平行トレンド仮定の確認に限定して追加。既存の仮定を証明できない旨、World Bank出典、ワークシートと記入例は維持。

