因果推論・実験因果推論閾値自然実験準実験局所的効果

回帰不連続デザイン

Regression Discontinuity Design
別名: RDD、回帰不連続設計、閾値分析

介入の受否が特定のスコアや変数の閾値で決まるルールを利用し、閾値付近での不連続を因果効果として推定する手法。閾値近辺の対象者にのみ適用できる局所的効果だが、内的妥当性は高い。

難易度 上級 ●●●費用 ●●期間 データ整備に1〜3週間、分析・診断に1〜2週間

概要

成果割当変数(例: 点数)閾値(カットオフ)ジャンプ=効果対象外介入対象
割当の閾値の前後で結果がジャンプする大きさを効果とみなす。閾値近傍の局所的因果効果。

回帰不連続デザイン(RDD)は、Donald Thistlethwaite と Donald Campbell が1960年に奨学金受給の効果研究で最初に提案した手法。介入の受否が「ランニング変数(割当変数)」と呼ばれる連続的な値の閾値によって決定される場面で使われる。閾値のわずかに上と下にいる対象者は、閾値以外の属性においてほぼ同質であるという「局所的なランダム割付に近い状態」を活用して因果効果を推定する。

例として、奨学金のテストスコア基準・補助金の収入ラインによる受給資格・選挙の得票率による当落などが典型的な適用場面。閾値付近での結果変数の不連続なジャンプを介入効果として識別する。

シャープRDD(閾値を境に介入が確定的に変わる)とファジーRDD(閾値が確率的に影響する)の2種類があり、ファジーRDDは操作変数法と組み合わせて推定する。推定された効果は閾値付近の集団に限定した局所平均処置効果(LATE)であることに注意が必要。

✓ こんな時に使う

  • プログラムの受給資格がテストスコア・収入・年齢などの数値的な閾値ルールで決まっており、そのデータが入手可能
  • 教育プログラム(成績基準による選抜)・社会保障(所得ラインによる受給資格)・補助金など閾値が明確な行政プログラムの遡及評価
  • ランダム化や自然実験のような設定が存在せず、閾値ルールが唯一の外生的変異源である場面
  • 閾値近辺の対象者への局所的な効果で十分な政策判断ができる場合

✕ 向かない場面

  • 閾値付近に対象者が少なく、十分な推定精度が確保できない(境界近辺のサンプルが極端に小さい)場合
  • ランニング変数が操作可能であり、対象者が閾値付近で意図的に変数値を操作している可能性がある場面
  • 閾値付近の局所的効果では不十分で、プログラム全体・全対象者への平均効果を知りたい場合

実施手順

  1. ランニング変数と閾値の特定
    介入の受否を決定するランニング変数と閾値を明確に特定する。ルールを文書化し、閾値が実際に運用されているか(例外的な適用変更がないか)を確認する。
  2. データの収集と閾値近辺の分布確認
    ランニング変数のデータと結果変数を収集する。ランニング変数の分布をヒストグラムで確認し、閾値付近での密度の不連続(操作の証拠)がないかMcCrary density testで検定する。
  3. 閾値近辺の可視化
    ランニング変数を横軸に取った散布図に局所多項式回帰を重ねて描き、閾値でのジャンプを視覚的に確認する。bin幅の設定は複数試してグラフの安定性を確認する。
  4. 帯域幅の選択
    推定に使用するランニング変数の範囲(閾値からの帯域幅)を決める。Imbens & Kalyanaraman やCalonico、Cattaneo & Titiunik等の最適帯域幅選択手法を使い、主観的な設定を避ける。
  5. RDD推定量の計算
    選択した帯域幅内のデータで、閾値をまたいだ回帰(線形・多項式)を実施し、切片の不連続ジャンプをRDD推定量として求める。ロバスト標準誤差を報告する。
  6. ロバスト性検定
    帯域幅を変えた場合・多項式次数を変えた場合に推定量が安定しているか確認する。プラセボ閾値(真の閾値以外の値)でRDDを行い有意な不連続がないことを確認する。共変量での不連続テストで閾値前後の均質性も検証する。

長所と限界

長所

  • 閾値ルールが機能している場面では、閾値近辺において選択バイアスを除去した内的妥当性の高い因果推定が可能
  • 既存の行政規則・受給資格基準をそのまま活用でき、新たな実験設計が不要
  • 分析の設定(閾値・ランニング変数)が透明であり、仮定の検証テストが多数確立している
  • 識別仮定が相対的に弱く(閾値付近でのランダム化に近い状態)、観察的手法の中で因果推論の信頼性が高い

限界

  • 閾値近辺の対象者への局所的因果効果(LATE)しか推定できず、全対象者への平均効果は不明
  • 対象者がランニング変数を意図的に操作できる場合(ちょうど閾値ラインに乗るよう調整する)は識別が崩れる
  • 閾値近辺のサンプルが少ないほど推定の不確実性が増大し、実用的な精度が得られないことがある
  • 閾値付近のみで成立する連続性仮定——閾値を境に結果変数の潜在的アウトカムが連続的に変化するという仮定——は反事実的であり証明できない

⚠ よくある落とし穴

  • ランニング変数の操作を確認しない——閾値直下に不自然に対象者が集中していないかMcCrary検定を省略すると、識別の根拠が崩れていても気づかない
  • 帯域幅の恣意的な設定——研究者が好む結果が出る帯域幅を選ぶことで推定値を操作できる。必ず最適帯域幅選択アルゴリズムを使い、複数の帯域幅での安定性を示す
  • 閾値付近以外の対象者への一般化——「閾値付近の効果」が示されたに過ぎないのに「プログラム全体の効果」として解釈する誤り
  • 高次多項式のフィッティング——3次以上の高次多項式はノイズを大きく拾い、推定値が不安定になる。局所線形回帰が標準として推奨される