ひと目でわかる仕組み
使う場面
- NPO・社会的企業・協同組合が投資家・行政・社会に対して事業の社会的価値を説明責任として示したいとき
- インパクト投資・社会的インパクト債(SIB)において、社会的リターンを定量化し投資判断の根拠を示すとき
- 公共調達・補助金審査で複数の提案を社会的価値の観点から比較評価するとき
- 組織内部での学習・戦略改善を目的として、どのアウトカムが最も価値を生んでいるかを把握したいとき
向かない場面
- 社会的変化の貨幣換算自体を組織の価値観・倫理観として拒否する場合 — 参加型評価やMSC等の質的手法の方が適切
- 貨幣換算と因果調整の根拠を示せず、比率だけを確定的な実績として提出しようとする場合
- 長期の便益が重要なのに、継続期間や減衰、反事実について合理的な根拠と不確実性の検討ができない場合
参加者・体制と成果物
変化を経験した人、事業担当、費用を把握する人、分析担当。必要な立場が含まれるよう選び、人数だけを協議の品質基準にしない。
主な成果物
- インパクトマップ(ステークホルダー別アウトカム一覧)
- 財務プロキシ選定根拠資料
- インパクト調整計算シート(デッドウェイト・帰属・逓減・移転)
- SROI報告書(比率・感度分析・前提の完全開示)
実施手順
- スコープとステークホルダーの特定分析範囲(どの事業・期間・地域)と、便益を受けるまたは費用を負担する全ステークホルダーを特定する。最重要ステークホルダー(受益者)の選定理由を文書化する。
- インパクトマップの作成ステークホルダーごとに「投入 → 活動 → 産出 → アウトカム → インパクト」を記述する。各アウトカムについて「誰の」「どんな変化か」を明確にし、測定指標と目標値を設定する。
- エビデンスの収集各アウトカムの発生量(どれだけ変化したか)をデータ収集で確認する。受益者インタビュー・アンケート・行政データ等を組み合わせ、変化の証拠を集める。
- 財務プロキシの選定と換算当事者にとっての変化に合う価値の代理値を調べる。対象、単位、価格年、地域と換算方法の適合を説明し、重複する便益や移転を二重に計上しない。値の大きさだけで選ばない。
- インパクト調整(4要素の適用)事業がなくても起きた変化(deadweight)、他者の寄与(attribution)、他の場所や人で置き換えられた成果(displacement)、後続年の減衰(drop-off)を区別する。割合の意味、適用順、期間、根拠を明記し、同じ影響を重ねて控除しない。
- 社会的価値の現在価値換算とSROI比率の算出期間に応じて調整した価値と投入の現在価値を求める。割引率は用途と根拠を示して選ぶ。通常のSROI比率は価値PV÷投入PV、net SROIは(価値PV-投入PV)÷投入PV。比率は金銭化した価値の推定で、現金の回収額や確定した因果寄与率ではない。
- 感度分析と報告主要な財務プロキシ・デッドウェイト・逓減率を変動させてSROI比率の安定性を確認する。SROI報告書には換算の根拠・調整の仮定・感度分析の結果を全て開示する。
長所と限界
長所
- ステークホルダーとの対話プロセスが内蔵されており、数値算出と同時に組織学習を促す
- 市場で価格付けされない社会的価値(精神的健康、社会的つながり、環境改善等)を可視化する枠組みを提供する
- 変化を受けた人の視点と費用をつなぎ、価値の根拠を整理できるが、必要な資源は範囲と証拠の状況による
- インパクトマップが評価の設計図として機能し、測定・報告・改善のサイクルを回しやすい
限界
- 代理値の適合性と選定によって比率が変わるため、根拠、代替値、換算しなかった重要な変化を報告する必要がある
- デッドウェイト・帰属・逓減の推計に信頼できる二次データがない場合、実質的な推測値になる
- 比率は対象、期間、成果の範囲、換算と調整に依存するため、異なる事業の単純ランキングに使えない
- 参加型で丁寧に実施するほど時間・人件費がかかり、中小規模組織では実施負荷が高い
⚠ よくある落とし穴
- 比率を大きくする代理値だけを選ばない。関係者にとっての意味、適合性、代替値、感度分析を示す。
- ステークホルダーの声を集めず分析者だけでインパクトマップを作成する — 最も重要な受益者の視点が欠落し、実態と乖離したモデルになる
- 根拠なくdeadweightを0%としない。比較情報や当事者の証拠から検討するが、他事業の推定値を条件確認なしで転用しない。
- SROI比率だけを単独で報告し、前提・調整値・感度分析を省略する — 数値の信頼性が失われ、批判的検証に耐えられない
適用条件と根拠
一年以内の変化を換算する算式を確認する
説明用の仮想例です。投入10万円、調整前価値25万円、デッドウェイト20%、他者への帰属25%、移転0%という仮想例です。同一期間内の価値として割引を省略します。
| 項目 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 調整後価値 | 250,000×0.8×0.75 | 150,000円 |
| 総SROI | 150,000/100,000 | 1.5:1 |
| 純SROI | (150,000−100,000)/100,000 | 0.5:1 |
この例から判断できること
1.5は1円の投入に対する換算価値で、1.5円の現金収入ではありません。帰属25%は他者分を差し引く意味です。プロキシと調整率は説明用で、実証された値ではありません。
判断で間違えやすいこと
帰属25%を自団体の貢献として扱い、そのまま25%を掛ける
見直し方: 他者分か自団体分かを定義してから式に入れる
理由: 同じ帰属という語でも意味を逆にすると算定結果が変わるためです。
安心感に高い単価を付けて比率を上げる
見直し方: 関係者にとっての価値と比較可能なプロキシを根拠付きで選ぶ
理由: 比率を先に決めると価値の過大計上につながるためです。
参照資料と確認箇所
- A guide to Social Return on InvestmentJeremy Nicholls・Eilis Lawlor・Eva Neitzert・Tim Goodspeed/The SROI Network · 2012
- 参照箇所
- Stage 4: Establishing impact / 5.3 Calculating the ratio / 5.4 Sensitivity analysis
- 本文との対応
- 総SROIと純SROIを区別し、デッドウェイトや他者への帰属、プロキシを変えた感度を確認します。
- Standards for Applying the Principles of Social Value: The Complete SetSocial Value International · 2026
- 参照箇所
- Section Three p.30: SROI reports / social impact reports; Reporting Standard Part B p.33 items 8, 8.1–8.2 / Appendix 3 p.37: optional ratio disclosure, range, sensitivity and assumptions
- 本文との対応
- 社会的価値の測定・管理全般でSROI比率が必須という意味ではありません。SVI2026は、比率を含むSROI報告と、比率を必須としない広い社会的インパクト報告を区分します。組織向けReporting Standard Part BではSROI比率の開示は任意項目です。比率を報告する場合は感度分析、算定の仮定・判断と、範囲としての比率を説明します。
このページの引用情報
評価コンパス編集.「社会的投資収益率」. 評価コンパス, 2026-10-07更新. https://evalcompass.jun-nakatani.com/methods/sroi/
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更新履歴
- — 定義と適用条件の出典を確認し、仮想事例、判断理由、全欄の記入例を追加。未確認の歴史・普及に関する断定を整理。 既存の手順・留意点も点検し、固定的な人数・閾値や制度の一般化を調整。 入力欄の位置・型・個数を保ち、フォームの固定条件や閾値の表記を修正。
- — SVI2026の報告基準p.33・p.37を補足。社会的価値測定全般での比率の任意性と、比率報告時の感度・仮定・範囲を明記。SROIの定義・算式、2012ガイド、ワークシートと記入例は維持。
- — 独立内容点検(content-check-causal)に基づく訂正。SVI2026 p.30のSROI報告と広い社会的インパクト報告の区分、およびReporting Standard Part Bの任意開示の範囲を明記。

